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誤認を生成する知覚情報処理とは。色と形の世界。

美術家サカイケイタの作品は自身が体験するヒューマンエラー「錯誤行為」から作られる。中でも道路標識や信号機などの公共物を模したLINE Seriesはサカイが視覚認知における秩序性をテーマにした彫刻作品群だ。視認性の高いモチーフ(サイン)に潜む模様性について、文字が模様に見えるという経験を通してサカイは人の認知に関心を持ち、デザイン的手法を採用して彫刻やインスタレーションという形で展開している。彫刻とグラフィックデザインの領域を横断する本シリーズは、見る行為そのものと身体的感覚の関係性を問うている。今回、サカイに「エラーが呼ぶ視覚原理」について話を訊いた。

1. ヒューマンエラーがきっかけで生まれる作品

エラー性の拡大解釈からカラフルなLINE Seriesへ

―LINE Seriesはどういった経緯で生まれましたか。

話は少し遡るのですが、LINE Seriesを作る以前は自分が体験するヒューマンエラー(書き間違い、見間違い等)を起こす文字をモチーフに制作をしていました。そもそも文字はどう成り立っているのか?偏があって、があって…と一度ひとつひとつの要素を分解し、そこでわかったこと(構造)を応用して作品に活かすという流れでした。
でも、こうした形の類推や相違による制作方法は、構造を成り立たせている法則がわからなければ難解でパーソナルな作品になり過ぎてしまうことが多くて。自分が面白いと感じていたエラー性にも直結していなかったんです。次第に文字というモチーフからから少し離れて、読み書き困難というエラーを起こす認知の特性の方に関心が移っていきました。エラーをより広く解釈するようになったことで扱えるモチーフが増え、「色」を取り扱った彫刻を作りたくなったのがきっかけで学部の卒展で試しに〈LINE01〉を作った感じです。

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武蔵野美術大卒業・修士制作展​〈LINE01〉サイズ可変  2019

―文字の構造自体から、エラーを起こす認知の特性に関心が移る中でLINE Seriesが生まれたのですね。文字から色への飛躍はどのようなきっかけがあったのでしょうか。

 

色を扱いたいと思ったのは自分の認知の特性(偏り)そのものを作品の構造に取り込めないかと考えたからです。僕には文字が模様に見えることがあって。白と黒のコントラストや線のリズムに瞬間的に意識が集中してしまうことで、文字を記号としてではなく模様として認知してしまうんです。一方で、街の看板や車は色の塊として見えたり、もののシルエットが気になったりするんですよ。

文字で起こるエラーと、街中の風景で起こるエラー、一見すると関連がないように思えますが、どれも自分の認知の偏りが起こしているんですね。その共通点は何なのか。そもそもエラーって何か。何が起こっているのか。何で起こるのか。何が起こしているのか。さらに言えば、見ることとは何か。認知のしくみや自分の認知の特性(偏り)について分析する中で出てきた「色」というキーワードで新たなエラーを表現したいと思うようになりました。

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〈LINE06〉H200×W2720×D1400cm(8pcs)  2020
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〈LINE09〉H600×W780×D100mm(4pcs)  2021
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〈LINE12〉H450xW360xD70mm(4pcs) 2021

―文字で感じていたエラーが実は街中の風景の中でも起こっている。身の回りの観察から認知の特性を知ることはとても興味深いです。サカイさんの色で起こるエラーについてもう少し聞かせてください。

僕は並んでいるものの隙間の空間が気になったり、例えば道路標識(サイン)がたくさん並ぶことでサインとして見えるというよりも色の塊として見えたり、見えてしまったりすることが普段の生活の中でも結構あって。三次元的な空間を強く意識してしまう一方で、二次元的なシルエットとしてわかりやすく情報処理をしようとしている自分がいることを意識することがあります。そういった感覚は誰かに話してもあまりピンとこないことも多く、そのズレ感がとても面白くて。

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―確かにLINE Seriesを観ていると、色によって二次元と三次元を行き来しているような感覚になります。

先ほど〈LINE01〉のお話が出ましたが、初期のLINE Seriesはとてもカラフルでしたよね。一方で、最新作は黒で統一していらっしゃいます。シリーズ内での色の捉え方に変化はあるのでしょうか。

初期のLINE Seriesは視認性を重視し、色をダイレクトに感じることを目指して作品を作っていました。〈LINE01〉はミニマリズムを参考に情報量の少ない作品にしたくて制作したのですが、抽象的過ぎてキーワードの「エラー性」が見えづらく、考えていたことと造形が乖離していたんです。

修士ではオプティカル・アートやグラフィックデザインの領域まで視野を広げて研究しました。視覚における認知をテーマに研究をしていたのですが、環境と人の関係性からどのように人が空間を把握してものを認識するのかに関心があって。感覚を重視した視覚体験を作りたかったんです。それで、視認性の高い色を扱い、視覚効果を上げることによってエラーをより感覚的に体感できるような作品作りに重点が移っていきました。最近は限られた空間でより視覚効果のあるパターンへと提起し直した壁掛けメインのLINE Seriesになってきていますね。

そういった変化と同時並行的に、小さい空間で展示する機会が増えてきたこともあって、展示構成を細分化することにより作品が様々な空間に適応できるよう構想しています。そのため最近では形や色の扱いがどんどんと変化してきていますね。

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〈X102〉H450xW260xD70mm(3pcs) 2021

2. 移ろう色との対話から新たな錯覚を考える

カラフルな世界から光へ転じるシリーズへ 

―展示形式の変化から錯視が効果的に生まれるように色や構造を変えているとのことですが、黒色のLINE Seriesはどういった狙いがあるのでしょうか。

2021年からLINE Seriesの派生作品としてX series(単色)をスタートしました。今までは色による錯覚を効果的に体験できるように大きなLINE Seriesを作ってきましたが、光に焦点を当てたのがX seriesです。

LINE Seriesのようにパターン化してコントラストを上げてしまうと、色のデザイン性が強くなるということがありました。デザイン的な色には共通認識があり、色の持つ目的やメッセージに引っ張られて思考が固まってしまう。錯視に引っ張られ過ぎて、とてもわかりやすい作品になってしまって。彫刻出身の自分としては、環境や光の影響を受け、刻々と変わる物質として色をもう一度扱いたかったんです。支持体と物質の関係を改めて追求したかった。

光の反射を取り入れて色を扱うことで、より支持体である素材や形との関係性を強調することを試みています。また、視覚の秩序性を錯覚のパターン(色)ではなく、反射の連続性(光)へと解釈し直した新たなシリーズでもあります。

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―X Seriesになってから色の扱いについて意識していることはありますか。

X Seriesに関しては色の塗り方の使い分けによって色を素材として扱えるのかということを意識しています。ブラックを見てもグレーに見えたり、光の反射の仕方によって変化する作品ですね。人の認知の曖昧さから生じる色の不確実性をどう作品に取り込めるのか、生活の中で目にしている色について改めて考えるようになりました。でも基本的にはやはりカラフルなLINE Seriesと問いたい内容「見ることとは何か?」は変わっていなくて。人の認知について表現していきたいです。

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3. プリミティブな視覚性で捉えた多層的なヴィジョン

既成概念の枠を超えたサインと記号の在り方を探る

 

―サカイさんは既製品で制作される時と、LINE Seriesのように一から制作される時がありますが作り方は変わりますか。

どちらの表現も街中や身の回りを観察するところから始まるので、ものを眺めてネタを貯めている時はほとんど同じ感覚です。近年は駅等でよく目にする公共物が気になっています。観察から浮かんできた問いは同じでも、扱う素材が変われば調べるべき内容やコンセプトも後に異なってくるので作り方は自ずと変わってきますね。

最近の既製品を扱う作品では、観察をする中で気になった素材と直感的に遊ぶことで自然と(無作為に)エラー性が生じ、結果的にパーソナルな作品ができ上がっています。

既製品を使わないLINE Seriesでは、街中の標識(サイン)を観察し、色や形の関係性を日々問いながら技法探究をしています。サインを抽象化することで視覚のエラー性を作り出せないか、そもそもどのように生じるものなのか、観察しつつ色々調べて制作しています。

どちらのプロセスで作っても自分のメインテーマであるエラー性をんだ作品になってきますね。

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―出発点は同じなのですね。観察している時どういったことを考えていますか。

サインを観察していると、なぜ人は抽象形態として(サインを)認識できないのか不思議に思うことがあって。

駐停車禁止マークを見た時、私たちは特定のエリアに危険が及ぶ行動(車を停める)をしない様に注意を払うと思います。この、形態をデザイン的機能として簡略化してサインを解釈する認識観はとても偏った現代人特有の認知ではないかと感じます。
僕はもう少しものを見る時はプリミティブな直感で捉えたく、そういう眺め方ができると生活が面白いと思うんですよね。街中のサインや記号をシマウマを狙うライオン的な感覚で見たいというか、(笑)。他の動物みたいにもう少し色や形のみの情報であえてものと接したいという思いがあります。

―ものの見方や認識に興味があるサカイさんならではの自由な観察が、実際の生活に馴染んでいることがあるわけですね。シマウマを狙うライオン的な感覚、笑。もう少し詳しく聞かせてください。

シマウマは群れになると模様として一つの塊に見えることが知られていますよね。進化の過程で自然と形成された模様に、危険から身を守るための機能があるのって面白いと思うことがあって。他にも、アブがシマウマを見た時、シマウマと気づかずぶつかることがあるらしくて。白黒の模様を樹と樹の間と勘違いしてアブは白い部分を通り抜けようとするみたいなんです。シマウマは縞のおかげで刺されづらくなる。こういったアブの知覚や、それを騙す機能を伴ったシマウマの縞を知った時に、自然選択的な模様性の面白さというのに興味を持ったんです。

私たち人間とは別の見え方をするということは、少し異なった情報や部分を認識している可能性があって、制作では他の動物の知覚に習ってものを観察して想像したいということがあります。私たちが普段目にするサイン等を、野生動物の色の見方や、自然選択的な模様をんでいる形態として観察すると別の発見があり、“模様性”に関心があります。

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―サカイさんに見えている模様の世界や色の解釈は、私たち人間が普段当たり前に信じているものよりも幅が広いと感じました。

以前、学習障害について研究をしている方から聞いたお話なのですが、段差があることを知らせるために階段の淵に貼ってある黄色いテープがありますよね。そのテープのコントラストが強過ぎることで距離が測れなくなり、階段から落ちてしまう方がいらっしゃるお話を聞いたことがありました。これは空間把握において視覚に特化した人がなりやすいエラーみたいなんですよね。しかし実際、階段のテープは高齢者のためにデザインされていて、弱視覚者の方では黄色は距離を測るためによく機能する側面もあるんです。人によってものを見るポイントや情報処理に偏りが出ることで、見ているものの輪郭が曖昧になることがあるからこそ僕は視覚の秩序性に興味があります。

さっきの話だと少し生活の不便さの例になった感じがするかもしれませんが、本来、ものをニュートラルに見ることは純粋に面白いことが多いと考えています。

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4. 起きてしまうエラーを楽しむ

困難を別の角度から捉える”遊び”の感覚

 

―お話を聞いていると、独特の視点で捉えた世界を能動的に楽しもうと制作されているように感じました。サカイさんにとって作品を作る作業は子どもが遊ぶ感覚に近いですか。

 

少し話が脱線するかもしれないのですが…。エラーはルールと表裏一体なんです。なんでもありの状態ではエラーにならない。エラーが起こるということは、その大前提となるルールが存在する。みんなが持っている共通認識だったり、当たり前や普通といってもいいかもしれません。そこから外れてきてしまうからエラーは疎外されたり、コントロールすべきネガティブな要素と捉えられることが多い様に感じます。

一方で、ルールがあってエラーが存在するという構造からすると、スポーツや子どもの遊びって同じ原理で成り立っていることにある時気づいて。エラーを楽しんでいるというか、ゲームがより楽しくなるようにエラーが存在しているんですね。

認知の偏りによって文字が模様に見えたり、街中の風景が色の塊に見えるというエラーは僕にとって”困る”ことでもあり、”面白い”ことでもあって。どうしても起きてきちゃうエラーをどう受け止めるかというのはもうひとつのテーマでもあります。もちろん”困る”という現実はあるので、そこに向き合って改善していくのはもちろん重要なのですが、”困る”ことも楽しんでいく、面白がっていくという向き合い方を僕は生きる智恵的に体得してきたところがあって、笑。制作だけでなく日常生活の中でも、遊びの感覚みたいなものは案外大切かなと感じています。

 

 

―最後に、今後の展開を教えてください。

今後はより「視覚の原理」を問う作品を作りたいと思っています。作るメディアにはこだわらずに制作するのが僕にとっては良くて、素材やスタイルにこだわらず挑戦していきたいと考えています。そのためにも能動的に色々と学んで作品に反映させたいです。最近だとパターン認識や数理言語の仕組みなど、ものの組み合わせを探るのが楽しくてルールを自分で定めて習作を作ったりしています。なるべく遊びながら作品を作れる環境にしたいと思って、積極習慣的に色々やってみている感じですね。

LINE Seriesは新しい素材を検討しつつ、塗りの精度や技法をもう少し幅広く研究できればと思います。今は小さめのコンパクトな作品が増えましたが今後、大きな作品やインスタレーションを作っていければと考えています。